• Kanon Kobayashi/ 小林香音

読書録 - 小説が説得力を持つための技術

前回の読書は創造性が脳のどのような機能によって生み出されるかということでしたが、 今回は小説において、どのような点で小説家が創造性を発揮しているのか、ということについて知ることができました。

『若い小説家に宛てた手紙』バルガス=リョサ著 木村榮一訳  ノーベル文学賞を受賞した著者が、“小説が説得力を持つための手法”を解説している本です。

“もともと内容と語り口(形式)は固く結びついていて、分離は本来ありえない。優れた小説ほど小説の世界に没入でき、形式は見えてこず、自然に説得力を持って感じられる” ということを断った上で、あえての”邪道”を行って小説を構成要素に分解して手法を解説しています。 具体的には小説に必須の構成要素を「空間」「時間」「現実平面(語り手がどの平面に立つか)」に分けて、この中で起こる変化(=転移)はどんな効果をもつか、説得力や文体はどのように生まれるか、を解説しています。 印象的だった箇所を引用しつつまとめてみます。 〜小説の創造性〜

「全ての小説は、作家の記憶に刻み付けられ、創造的な空想を作動させることになったある種の出来事や人物、状況に基づいて、幻想と技巧を用いて築きあげられた構造物なのです」

要は、小説家は自身の記憶から生まれる物語の中の虚構世界と、現実の世界との“橋渡し役”として、語り手がどこに立つのか、空間の設定はどうするのか、時間の設定はどうするのか、どのようにこれらの視点を変化させていくかなどを工夫しており、そこにこそ創造性が生まれている、ということです。


〜説得力〜


自分の生活体験を最大限に生かしてエピソードと人物を創造し、読み手が生きている世界から完全に独立した別の世界に身を置いているかのような錯覚を抱かせる、そのように語ることが作品に説得力をもたらす上で必要不可欠な条件なのです。」

「説得力というのは、小説家が効果的にテクニックを用いられるかどうかに関わっています。」


などとありましたが、これは音楽も、どの分野の芸術も同じなのではと思いました。作曲家が曲を作るときにも (演奏家が演奏するときにも)、感動させようという意図や感動させるために必要な技術が感じられず、用いられている手法と音楽のテーマが全く切り離して考えられなくなって、その音こそが“必然“のように思える、という作品や演奏が、偉大、と言われるものですよね。

このように、小説を構成要素にあえて分解して、なぜ良い小説には説得力があるのか分析し、どのような手法が用いられているか考えてみると、作品を作る側の視点を知ることもできます。そうするとただ受動的に読むだけではなくなりそうで、さらに読書が面白くなりそうです。

2020.7.12