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メンデルスゾーン『無言歌集』曲目解説

  • 執筆者の写真: Kanon Kobayashi/ 小林香音
    Kanon Kobayashi/ 小林香音
  • 1月2日
  • 読了時間: 5分

更新日:7 日前


ピアノ・ヴァイオリン・チェロの楽器により、「歌」を奏でることをテーマにした演奏会『無言歌~音楽は語る~』を企画/開催しました。(演奏会の様子はこちら)


私が一番好きな作曲家のうちの一人はメンデルスゾーンです。

新型コロナウイルスで社会活動が制限されたとき、社会との繋がりが希薄になり孤独を感じた時に、最も自分自身を奮い立たせてくれたのはメンデルスゾーンの『無言歌集』でした。

この曲集では、特定の状況に左右されない、さまざまな感情・情景が情感豊かかつ穏やかに表現されていると感じます。


今回は、曲目解説として、メンデルスゾーン本人が遺した手紙を大きく参考にしながら、この曲を読み解いてみたいと思います。


19世紀の作曲家メンデルスゾーンはドイツ・ハンブルクにてユダヤ人の裕福な一家に生まれ、「ドイツ社会の中で認められていく」という一家の重い使命も背負って、英才教育を受けました。 本人の性格的にも勤勉で真面目であり、音楽、絵画、文学など学んだものは、何でもできて、才能が花開いていきました。


一方で、当時強まりつつあった反ユダヤ主義の社会で理不尽にも見える差別を受けて度々挫折も味わっていました。

しかし、メンデルスゾーンは、私が思うに、自らを律することができる、賢く冷静な性格であり、自らの中でそういう経験も消化していけるような人だったと思います。

自分を必要とする各地からの依頼にこたえて一生懸命働きました。


社会の中での一定の成功も求める冷静な側面もあった一方で、『無言歌集 Lieder ohne Worte (Songs Without Words)』はいつも自分を応援して一番に支えてくれた最愛の姉ファニーが考案したとも言われています。

若いときから、年月をかけて数多くの小曲を積み重ねて作っており、

自身の心にとって大切な曲集なのではないかと、強く感じます。


彼は、自らの経験を直感的に音楽で表現できる人でした。下記のように、手紙の中で「自分の中に秘められたもの、自分だけが知り、自分だけが持つ感性と心情が、形となって現れること」を芸術家の使命として考えていたことが記されています。無言歌集はまさに内なる感情が現れた作品なのではないかと思います。


メンデルスゾーンの手紙を、翻訳してみます。

一つ一つの言葉に太字を弾きたいくらい、珠玉の言葉です。メンデルスゾーンの美学が、言葉を照らすと少しずつわかってくるようです。

メンデルスゾーン | 手紙より抜粋 (下記文献から参照し小林訳、中略も同様)


【若手作曲家エッケルトへの手紙】

1842年1月26日、ベルリンにて

あなたは、あらゆる意味で「巨匠の域」と呼ぶにふさわしい水準に到達しています。 (中略)

そしてその水準を越えて、外的なもの―それが学識や評価、器用さと知識、栄誉や名声と呼ばれるものであっても―をなお追い求める価値は、もはや存在しないのです。

しかし、私の考えでは、まさにこの地点こそが、本当の仕事が真に始まる時なのです。

ここからはただ一つの問いが存在します。それは、人の胸の内で何が感じられ、経験され、それがどのように心の奥底から語り出されるのかということです。それが、厳粛であろうと陽気であろうと、苦くとも甘くとも。

そこにこそ、人格と人生が表されるのです。

そして、人生が輝かしく幸福な時に、それが空虚なものへと拡散され無駄になることを避けるために、また、逆に不幸であった時に、それが打ちのめされ破壊されてしまうことを防ぐために、たった一つの防御策が存在します――それは、「働くこと」、そして「働き続けること」です。

だからこそ、あなたが、自らのうちにあるもの―あなたの性質や感情の中にあり、あなただけが知り、あなただけが持つもの―を明るみに出してくれることを、願っています。


下記の手紙は『無言歌集』について触れていて、大きなヒントを与えてくれる箇所です。


【(「無言歌集」について) 評論家スーシェへの返信】

1842年10月15日、ベルリンにて

人々はしばしば、音楽は曖昧で、自分の考えがいつもぼんやりしていると不満を漏らす。

一方で言葉なら誰にでも理解できると。しかし私にとっては、まったく逆なのだ。(中略)

私にはそれらが本物の音楽と比べて、あまりに曖昧で、漠然としていて、理解しがたいものに思える。

音楽は、言葉よりもはるかに豊かに魂を満たしてくれるからだ。

私が愛する音楽が私に語りかけてくるものは、言葉にするにはあまりに漠然としているのではなく、むしろあまりに明確すぎる。だからこそ、そうした思いを言葉にしようとするすべての試みに私は敬意を表するが、それでもどこか満たされないものが残る。(中略)

もし君が私に「その曲についての考えは何か?」と尋ねたなら、私はこう答えるだろう―「まさに、その歌にあるとおりだ」と。そしてもし私の心の中に、ある歌について一つまたは複数の明確な言葉が浮かんでいたとしても、それを他人には決して明かさないだろう。なぜなら、ある人の言葉が別の人の心の中では全く異なる意味を持つからだ。その歌の音楽だけが、同じ感情や同じ考えを、ある人の心に、また別の人の心にも呼び起こすことができる。



2018年、ライプツィヒのメンデルスゾーンハウスを訪れたことを懐かしく思い出しました。

メンデルスゾーンが家族で暮らした住まいが残されています。メンデルスゾーンの息遣い、人柄や社会環境をそのまま追体験できるように感じました。


メンデルスゾーンが描いた水彩画
メンデルスゾーンが描いた水彩画
メンデルスゾーン作曲『真夏の夜の夢』の指揮者体験コーナーもありました
メンデルスゾーン作曲『真夏の夜の夢』の指揮者体験コーナーもありました

参考文献

Letters of Felix Mendelssohn Bartholdy, from 1833 to 1847. Edited by Paul Mendelssohn Bartholdy, of Berlin; and Dr. Carl Mendelssohn Bartholdy, of Heidelberg. Compiled by Dr. Julius Rietz. https://www.gutenberg.org/files/50473/50473-h/50473-h.htm


Mendelssohn, letters and recollections by Hiller, Ferdinand, 1811-1885

Publication date 1874. Internet Archive. https://archive.org/details/cu31924022361020/page/n7/mode/2up 



FELIX MENDELSSOHN BARTHOLDY. The Favorite of Gods. The Mendelssohns. The Society. 2025/5/10最終閲覧. https://www.mendelssohn-gesellschaft.de/en/mendelssohns/biografien/felix-mendelssohn-bartholdy



音楽家の伝記 はじめに読む1冊 メンデルスゾーン. ヤマハミュージックメディア. 著者 ひの まどか. 2023年12月26日発売. 

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